大阪高等裁判所 昭和28年(う)1096号 判決
所論はこれを要するに本件事案は被告人が原判示上田ツルに対し犯行前夜における同人の不人情な処置を責めその肩を極めて軽く叩いたはずみに同人が前にのめりその場にあつた角の鋭どい木製箱枕に顔と肩を打ちつけたため右頬部に約二糎の挫滅創右肩上膊部に挫創を受けたに止まる事実関係であるに拘らず原審が原判示のとおりの事実を認定し殺人未遂罪として処断したのは事実誤認の違法があるというに帰着する。しかし原判示事実なかんずく被告人が仮睡中の原判示上田ツルに対し証第一号の鉄棒をもつて同人の顔面部を目がけて殴打しよつて同人に原判示の傷害を与えたこと及び右暴行により同人が死亡するかも知れないと認識しながら敢えて右所為に出でたことは証人篠原茂の原審公判廷における供述証人上田ツル同篠原茂に対する各証人尋問調書の記載その他原判決の挙示する証拠によりこれを認め得ないことはない。すなわち証第一号のような長さ約一米一糎直径約二糎五粍の鉄棒をもつて仮睡中の八十四才の老婆の顔面部を殴打するときは兇器の種類、被害者の年令性別打撃の部位に照らし致命的損傷を与える可能性十分であつて殺意を実現する手段方法が他に存するとしても被告人の本件所為につき未必的故意を認めるに何等差支えないから右の故意を認めた原審の事実認定には所論の不当なく弁護人援用の証拠及び記録に現われた爾余の証拠によるも原審の事実認定を覆えすことはできない。論旨は理由がない。
(註 本件は量刑不当により破棄自判)